現在の農薬と残留農薬への取り組み

昭和40年代に問題となった土壌や農作物に残留した農薬による被害の印象からか、いまでも農薬には「怖いもの」というイメージがつきまとっています。農薬とはどんなものなのか、農薬を取り巻く国や製造業者の取り組みはどのように行われているのかを確認することで、現在の日本の農薬や食の安全性について正しく理解しましょう。

農薬とは

農薬は、昭和23年に農薬の適正管理のために作られた「農薬取締法」によって定義されています。農薬というと農作物を食害する害虫を駆除するイメージですが、この法律では農薬や農作物、病害虫も、もう少し幅広く捉えられています。

農作物には観賞用の樹木や盆栽、草木、街路樹、ゴルフ場や公園なども含まれます。農薬は農産物を害する菌やウィルス、線虫、ダニ、ネズミ、スズメ、ナメクジ、ザリガニ、雑草などの防除につかう殺虫剤、殺菌剤、除草剤、忌避剤、成長促進剤、発芽抑制剤、農薬の効力を増進する展着剤、雑草用のマルチフィルム、ゴルフ場農薬、天敵・有用微生物などの生物薬品などです。

穀類や果実などの農作物の、収穫後の害虫や微生物の繁殖による腐敗などの対策のために使う、ポストハーベスト農薬は食品添加物として「食品衛生法」で規制されています。またハエや蚊などの不快害虫や衛生害虫は、農作物に被害を及ぼさないので、これを防除する薬品は農薬ではありません。

農薬は、農産物を生産する上での問題を解決するための資材だと考えられています。

農薬を使う必要性

日本は温暖で湿潤な気候のため、病害虫が発生しやすく欧州各国と比較して農薬の使用量が多くなっています。農作物は生育期間が長く、虫に食われていると商品価値が下がるためでもあります。もともと農作物は、人間の嗜好に合わせて必要な部分を肥大させるなど人為的に作られたものであるため野生の植物より病気にかかりやすく、まとまった面積で均一に育てられるという生育環境から病気が蔓延しやすくなります。

このため農薬を使用しないと収穫量が大きく減少してしまいます。また、有機農法では農薬を使う場合よりも労働時間が長くなることが分かっています。主な原因は除草です。除草剤は農作業にかかる労力と時間を大幅に軽減させています。

国の農薬の安全性に対する取り組み

農薬は「農薬取締法」によって、登録されたものだけが製造、輸入、販売、使用することを許されています。毒性や作物、土壌への残留、環境への影響などを試験し、食品安全委員会が安全性を評価して農林水産大臣が製薬ごとに登録します。

登録に際しては、食品安全委員会による農薬の1日摂取許容量の設定も必要です。「農薬取締法」によって農薬の「使用基準」も定められています。これに従えば、農薬の「残留農薬基準」を超える作物ができることはありません。

「残留農薬基準」は、「食品衛生法」で定められた食品に残留する農薬の基準です。農産物に残留する農薬の限度であり、厚生労働大臣が定めています。この基準を超えた濃度の農薬が残留していた場合には、対象となる農産物の販売禁止などの措置をとることができます。

この基準は国民が口にするすべての食品に適用され、国内産はもちろん海外から輸入された農作物も対象になります。厚生労働省は農薬の残留の実態を把握するために、食品中の残留農薬調査、マーケットバスケット調査、輸入加工食品中の残留農薬調査の3つの調査を行っています。

マーケットバスケット調査は、あらゆる食品をあらゆる調理法で調理した際の残留農薬の量を測定し、国民栄養調査の結果から1日当たりにその食品を食べることによって摂取される農薬の量を算出する方法です。

→11品目の野菜の残留農薬を検査した高知県農業技術センター

製造業者の農薬に対する取り組み

農薬の開発方向は、高活性、高選択性、易分解性、低毒性、製剤の改良へと進んでいます。高選択性、高活性とは、少ない量で効果を発揮する農薬という意味です。強力になって危険になったのではなく標的生物のみに選択的に働くので、人や動物に対する安全性が向上しています。

少量で済むので環境への影響も少なくなります。土壌中の農薬が半分に分解される期間は法律によって180日と定められています。しかし現在の農薬は、全体の60%が半減期が10日以内だといわれており、非常に分解されやすく残留性が低くなっています。

一部、土壌に撒く除草剤など効果を長く保つ必要があるものも存在します。毒性は「毒物及び劇物取締法」によって「毒物」「劇物」「普通物」に分けられます。現在の農薬の80%は「普通物」に分類されているので安全性もかなり高くなっています。

製剤そのものも使いやすく、安全で、環境低負荷型へと進化しています。

残留農薬のADI(1日摂取許容量)とは

残留農薬の安全性は、摂取した量で決まります。日本では農薬の安全性を調べる基準の1つとして、ADI(1日摂取許容量)が定められています。その農薬を一生涯、毎日摂り続けるときに健康に影響が出ない量のことです。

ADIは、各種の毒性検査を実施して健康に影響のない量まで減らした「無毒性量」を設定し、これを安全係数で割って算出しますが、およそ「無毒性量」の100分の1ほどになります。ADIは農作物に残っていたとしても問題のない農薬の、残留基準のもととなります。

ADIを100として水や土などから摂取する農薬を20%、残りの80%を食品からの農薬摂取量に当てています。水や土壌についてはチウラム、シマジンなどの農薬について、水道法又は環境基本法に基づいた基準が定められています。

大気の環境基準は定められていませんが、環境省の調査では問題となるような残留の数値はみられませんでした。厚生労働省が行ったマーケットバスケット調査では、平成3年から平成11年までの間に96種類の農薬が調査され、残留が認められたのは17の農薬でした。

これらの農薬の1日の摂取量とADIとの比を算出すると臭素以外の16の農薬で6%未満となりました。臭素については天然由来の成分と考えられるため、現在、日本人が食べ物から摂取する農薬はADIよりはるかに低くなっています。

残留農薬を気にし過ぎないで、おいしく食べよう

現在はポジティブリスト制度によって、すべての食品に農薬の残留基準が設けられています。海外から輸入した作物についている農薬についても同様です。基準値を超えると流通を禁止することができます。農薬そのものも人や動物に対して安全で、環境にも負担をかけないものに変わっています。

安心して、おいしく食事を摂りましょう。